まずいことになった
「参った、動けない」
じっとりと背中に流れる冷や汗を感じながら
私は、呆然と立ち尽くしていた
道の途中で突然
足がすくんで、動けなくなってしまった
夏の終わりの暑い日、日傘を差し
背中にじっとり流れる冷や汗を感じながら
ただ、恐怖に立ちすくんでいる
気温は35度を超えているのに
身体はガタガタと震え始めた
動きたいのに動けない
助けて欲しくても周りに人もいない
声も出せる気がしない
どうしてもそこから、足が行かない
行ってはいけない気がしてならない
ただ、恐怖に巻き込まれていく
動機が激しくなり
視界が歪んでいく
これ、パニック障害みたいな症状だな…
と、冷静な部分がかろうじて
メルトダウンを防いでいる
私が思考優位なのは
ここに由来するのかもしれない
感情に巻き込まれるメルトダウンを
防いできた記憶があるのかもしれない
「あの橋を渡っちゃダメだ
あの橋の先は流されて
みんな死んでしまった!!
行っちゃダメだ!!」
頭の中にサイレンのように
アラートが響き渡る
何を言っているんだ?何の話だ?
そんな頭の冷静な言葉は
圧倒的な恐怖の体感の前に無力だった
少し離れたところにバス停がある
そこまで戻ろう
胃がひっくり返りそうになりながらも
ジリジリと後ずさりしていき
日陰にしゃがみこんだ
ゼエゼエと息をしながら
めまいと頭痛の中
陽炎の向こうに伸びる橋を見ていた
ただでさえ怖いものが多かった私は
物心ついた頃から「水」が怖かった
お風呂も怖いし
プールも怖い
シャワーですら怖い
今も流れる水の音には不安になるし
川の橋を渡るのも
湖の底を見るのも怖かった
その昔、支笏湖という湖は
当時とても水が透き通っていて
ボートで漕ぎ出すと
湖底に沈んだ樹木たちが
ゆら~りゆらりと揺れる様子が見て取れ
吐き気を催したことを覚えている
水になにかされるわけでもないのに
どうしてこんなに怖いのだろうと
我ながら不思議になるくらいだった
前世で溺死してるな…
そう、うそぶいてはみたものの
本当に溺れた記憶が蘇っているのではないかと
思うほどの苦しさだった
近くのスタバでひと休みしつつ
記憶を反芻してみた
何がきっかけで、あの恐怖に襲われたんだっけ?
大崎警察署を右手に見ながら
あの橋、あの陸橋を超えたら大崎駅だ
そう思ったんだっけ
あの橋、あの橋を渡れば…
そこら辺からなんだか
ゾワゾワしてきたんだっけな…
あの道をそのまま行けば
橋の下には轟々と音を上げ流れる川がある
そんな景色が感じられる
その時
「あの橋、
あの橋を渡ってはいけない!!」
そんな声が鳴り響いた
あの橋の向こうは、川が氾濫して
田畑は皆、流されてしまった、と
家もすべて流されてしまった、と
どこかから、わんわん響いてくる
そうなのか、なにかを
警告してくれているのだろうか
わからないまま帰宅した
あの橋の下は川
そう信じて疑わなかったのだけど
帰宅して地図を見てみたら
なんのことはない、あの下には
山手線が走っていて
水などどこにも流れていないのだ
妄想も甚だしいな!!
我ながら苦笑いしつつ
この話は、妄想で終わると思っていた
続く
コメント
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